一過性の心房細動と思っても油断できない?
心房細動(AF)は、さまざまな病態に伴って入院中に初めて診断されることがあり、その一部は誘因(感染症や手術など)の消失により自然に収束する場合もあります。
しかし、こうした「入院中発見型AF」が、退院後にどれほど脳卒中リスクを有するのか、充分なデータはありませんでした。
そこで今回紹介したいのが、カナダ・オンタリオ州の人口ベースコホートを対象に、入院中に新規発見されたAF患者の脳卒中リスクを評価した重要な研究です。
試験結果から明らかになったことは?
試験概要
項目 | 内容 |
---|---|
試験デザイン | 人口ベース後ろ向きコホート研究 |
対象 | 2013年4月~2023年3月に退院した66歳以上の患者(入院中に初回AF診断) |
総患者数 | 20,639人(平均年齢 77.1歳、男性58.1%) |
入院理由分類 | 非心臓内科疾患(40.4%)、心臓外科(34.4%)、非心臓外科(17.2%)、心臓内科(8.0%) |
主要評価項目 | 退院後の脳卒中による再入院 |
主な結果
- 抗凝固薬使用率(1年後)
- CHA₂DS₂-VAスコア1~4点群:26.4%
- CHA₂DS₂-VAスコア5~8点群:35.2%
分類 | 対象患者数(割合) | 1年後の脳卒中リスク(抗凝固療法なし) |
---|---|---|
心臓内科疾患 | 1,649人(8.0%) | 1.3%(95%CI 0.7~2.3%) |
非心臓内科疾患 | 8,340人(40.4%) | 1.2%(95%CI 0.9~1.5%) |
非心臓外科疾患 | 3,553人(17.2%) | 1.1%(95%CI 0.8~1.7%) |
心臓外科疾患 | 7,097人(34.4%) | 1.0%(95%CI 0.7~1.3%) |
CHA₂DS₂-VAスコア区分 | 抗凝固療法使用率(1年後) | 1年後の脳卒中リスク(抗凝固療法なし) |
---|---|---|
スコア 1~4 | 26.4% | 0.7%(95%CI 0.6~1.0%) |
スコア 5~8 | 35.2% | 1.8%(95%CI 1.4~2.2%) |
コメント
この研究は、入院中に発見されたAFでも、高リスク患者(CHA₂DS₂-VAスコア5以上)では脳卒中リスクが2%近くに達することを示しました。
これは、一般的に抗凝固療法を開始する基準(年間脳卒中リスク2%)に近い水準であり、慎重なリスク評価と治療戦略が求められることを示唆しています。
一方で、低リスク群(スコア1~4)では脳卒中リスクが低く、不要な抗凝固療法を避けた方がよい対象も明らかになりました。
本研究では、高リスクにもかかわらず抗凝固療法が十分に行われていない現状も浮き彫りにしており、退院後の管理の質向上が重要な課題といえるでしょう。
他の国や地域でも同様の結果が示されるのか、更なる検証が求められます。
続報に期待。

✅まとめ✅ 後向きコホート研究の結果、入院中に新規診断されたAF患者において、CHA₂DS₂-VAスコアが高い群では脳卒中リスクが2%近くとなり、抗凝固療法開始の基準に達する可能性がある。
根拠となった論文の抄録
背景:他の原因で入院中に初めて診断される心房細動(AF)は、誘発因子が解消することで自然に収束する場合がある。
目的:他疾患による入院中に新たに診断されたAF患者における、退院後の脳卒中リスクを明らかにすること。
試験デザイン:人口ベースの後ろ向きコホート研究。
試験設定:カナダ・オンタリオ州。
試験参加者:2013年4月から2023年3月の間に、初めてAFと診断され、生存退院した66歳以上の患者。
介入:他疾患による入院中に新規診断されたAF。診断理由により、心臓内科疾患、非心臓内科疾患、心臓外科疾患、非心臓外科疾患に分類した。
測定項目:主要アウトカムは脳卒中による入院。抗凝固薬の処方を打ち切り点として累積発生率関数を用いて粗発生率を推定した。情報バイアスを補正するため、打ち切りの逆確率重み付けを適用した。
結果:心房細動は、他疾患で入院中に20,639人(平均年齢77.1歳、男性58.1%)に診断された。内訳は、非心臓内科疾患8340人(40.4%)、心臓外科7097人(34.4%)、非心臓外科3553人(17.2%)、心臓内科1649人(8.0%)だった。
1年後、CHA₂DS₂-VAスコア1〜4の患者に対して抗凝固薬が処方されていた割合は26.4%、スコア5〜8では35.2%だった。
抗凝固療法を行わなかった場合の1年後の脳卒中リスクは、心臓内科群で1.3%(95%CI 0.7%~2.3%)、非心臓内科群で1.2%(95%CI 0.9%~1.5%)、非心臓外科群で1.1%(95%CI 0.8%~1.7%)、心臓外科群で1.0%(95%CI 0.7%~1.3%)だった。
CHA₂DS₂-VAスコア別では、スコア1〜4点群の脳卒中リスクは0.7%(95%CI 0.6%~1.0%)、スコア5〜8点群では1.8%(95%CI 1.4%~2.2%)だった。
試験の限界:長期間持続していたAFが新規診断と誤分類され、脳卒中リスクが過大評価された可能性がある。
結論:他疾患による入院中に新たに診断されたAF患者では、CHA₂DS₂-VAスコアが低いにもかかわらず、一定割合で抗凝固療法が行われていたが、スコアが高くなるにつれてその割合はやや増加していた。CHA₂DS₂-VAスコアが5以上の患者では、脳卒中リスクがAFにおける抗凝固療法開始基準とされる2%に近づいていた。
主要資金提供元:カナダ心血管学会(Canadian Cardiovascular Society)
引用文献
Risk for Stroke After Newly Diagnosed Atrial Fibrillation During Hospitalization for Other Causes
Eric Y. Ding et al. PMID: 40258280 DOI: 10.7326/ANNALS-24-01450
Ann Intern Med. 2025 Apr 22. doi: 10.7326/ANNALS-24-01450. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40258280/
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