オピオイド誘発性悪心・嘔吐に対してもナルデメジンが有効?
オピオイド誘発性便秘は、オピオイド鎮痛において最も頻度が高く、非自己限定的な副作用であり、服薬アドヒアランスを低下させ、疼痛緩和を妨げることが知られています。
最近、ナルデメジンやナロキセゴール(naloxegol)のような経口末梢作用性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)が臨床的に使用されるようになっています。しかし、オピオイド誘発性便秘、特に強オピオイドの使用による便秘に対する便秘予防効果については充分に検証されていません。
そこで今回は、強オピオイドの定期投与を開始したがん患者における便秘に対するナルデメミンの予防効果をプラセボと比較して明らかにすることを目的に実施された二重盲検ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
この多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ対照確認試験は、2021年7月から2023年5月にかけて日本国内の4つの大学病院で実施されました(ClinicalTrials.gov識別子:jRCTs031200397)。
対象は、がん性疼痛に対して初めて強オピオイドの定期投与を開始したがん患者であり、年齢は20歳以上でした。対象患者を、ナルデメジン(Symproic 0.2mg)群とプラセボ群に1:1の割合でランダムに割り付け、14日間プロトコール治療を行いました。
本試験の主要エンドポイントは、14日目にBowel Function Index(BFI)が28.8未満であった患者の割合でした。副次的エンドポイントは、自然排便の頻度(SBM)、QOL(Quality of Life)、オピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)の頻度でした。
試験結果から明らかになったことは?
適格性が評価された103例の患者のうち、99例にナルデメジン(n=49)またはプラセボ(n=50)が投与されました。
ナルデメジン群 | プラセボ群 | Day 7 群間差 | ナルデメジン群 | プラセボ群 | Day 14 群間差 | |
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BFI <28.8 | ||||||
患者数 | 28 | 8 | 31 | 8 | ||
割合の点推定値(95%CI) | 58.3 (44.4~72.3) | 17.0 (6.3~27.8) | 41.3 (23.7~58.9) P<0.0001 | 64.6 (51.1~78.1) | 17.0 (6.3~27.8) | 47.6 (30.3~64.8) P<0.0001 |
BFI | 27.2 ± 28.8 | 50.9 ± 25.1 | 25.4 ± 27.1 | 55.1 ± 29.5 | ||
Day 1からの変化 | 9.8 (1.4~18.2) | 33.1 (22.1~44.2) | -23.4 (-36.9 ~ -9.8) P=0.0011 | 7.1 (-0.2 ~ 14.3) | 38.5 (26.6~50.4) | -31.5 (-44.9 ~ -18.0) P<0.0001 |
SBM週3回以上 | ||||||
患者数 | 41 | 24 | 42 | 25 | ||
割合の点推定値(95%CI) | 85.4 (75.4~95.4) | 51.1 (36.8~65.4) | 34.4 (16.9~51.8) P=0.0003 | 87.5 (78.1~96.9) | 53.2 (38.9~67.5) | 34.3 (17.3~51.4) P=0.0002 |
CSBM週3回以上 | ||||||
患者数 | 35 | 17 | 34 | 17 | ||
割合の点推定値(95%CI) | 72.9 (60.4~85.5) | 36.2 (22.4~49.9) | 36.8 (18.1~55.4) P=0.0003 | 70.8 (58.0~83.7) | 36.2 (22.4~49.9) | 34.7 (15.9~53.5) P=0.0007 |
EORTC QLQ-C15-PAL | ||||||
Global QOL | 69.1(25.5) | 69.6(20.8) | 73.2(23.3) | 71.4(19.3) | ||
Day 1からの変化 | 16.0 (4.5~27.5) | -3.2 (-12.1 ~ 5.7) | 19.1 (4.5~33.7) P=0.0108 | 15.6 (3.4~27.8) | -2.0 (-13.6~9.6) | 17.6 (0.9~34.3) P=0.0390 |
PAC-QOL | NA | NA | 22.7(14.4) | 36.0(19.1) | ||
Day 1からの変化 | NA | NA | NA | 0.3 (-4.2 ~ 4.9) | 11.8 (4.6~19.0) | -11.5 (-19.6 ~ -3.3) P=0.0083 |
PAC-SYM | NA | NA | 7.7 (8.4) | 16.2 (9.9) | ||
Day 1からの変化 | NA | NA | NA | 0.2 (-2.5 ~ 2.8) | 7.4 (3.0~11.7) | -7.2 (-12.0 ~ -2.3) P=0.0044 |
14日目のBFIが28.8未満であったのは、ナルデメジン群(64.6%、95%CI 51.1~78.1)に対してプラセボ群(17.0%、95%CI 6.3~27.8)で有意に多く、群間差は47.6%(95%CI 30.3~64.8;P<0.0001)でした。
SBMの頻度、QOL、およびOINVの重症度は、対照群よりもナルデメミン群で名目上有意でした。
コメント
ナルデメジン(商品名:スインプロイク)の効能又は効果は「オピオイド誘発性便秘症」です。したがって、便秘症状があらわれてから処方されます。一方、基礎研究の結果から、予防投与により便秘の発生リスクを低減できる可能性がありますが、実臨床における検証は充分ではありません。
さて、二重盲検ランダム化比較試験の結果、ナルデメジンは、定期的なオピオイド投与を開始したがん患者において、便秘を予防し、便秘に関連したQOLを改善し、オピオイド誘発性悪心・嘔吐の予防効果の可能性を示しました。
ただし、患者数が限られており、各群50症例程度です。便秘に対する予防投与について、より大規模な研究による再現性の確認が求められます。また、オピオイド誘発性悪心・嘔吐についても、主要評価項目として改めて検証が求められます。便秘とのCo-Primary Outcomeとして設定してもよいかもしれません。いずれにせよ更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 二重盲検ランダム化比較試験の結果、ナルデメジンは、定期的なオピオイド投与を開始したがん患者において、便秘を予防し、便秘に関連したQOLを改善し、オピオイド誘発性悪心・嘔吐の予防効果の可能性を示した。
根拠となった試験の抄録
目的:オピオイド誘発性便秘は、オピオイド鎮痛において最も頻度が高く、非自己限定的な副作用であり、服薬アドヒアランスを低下させ、疼痛緩和を妨げる。本臨床試験は、強オピオイドの定期投与を開始したがん患者における便秘に対するナルデメミンの予防効果をプラセボと比較して明らかにすることを目的とした。
方法:この多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ対照確認試験は、2021年7月から2023年5月にかけて日本国内の4つの大学病院で実施された(ClinicalTrials.gov識別子:jRCTs031200397)。対象は、がん疼痛に対して初めて強オピオイドの定期投与を開始したがん患者で、年齢は20歳以上であった。対象患者は、ナルデメジン(Symproic 0.2mg)群とプラセボ群に1:1の割合でランダムに割り付けられ、14日間プロトコール治療を受けた。
主要エンドポイントは、14日目にBowel Function Index(BFI)が28.8未満であった患者の割合であった。副次的エンドポイントは、自然排便の頻度(SBM)、QOL(Quality of Life)、オピオイド誘発性悪心・嘔吐(OINV)の頻度とした。
結果:適格性が評価された103例の患者のうち、99例にナルデメジン(n=49)またはプラセボ(n=50)が投与された。14日目のBFIが28.8未満であったのは、ナルデメジン群(64.6%、95%CI 51.1~78.1)に対してプラセボ群(17.0%、95%CI 6.3~27.8)で有意に多く、群間差は47.6%(95%CI 30.3~64.8;P<0.0001)であった。SBMの頻度、QOL、およびOINVの重症度は、対照群よりもナルデメミン群で名目上有意であった。
結論:ナルデメジンは、定期的なオピオイド投与を開始したがん患者において、便秘を予防し、便秘に関連したQOLを改善し、オピオイド誘発性悪心・嘔吐の予防効果の可能性を示した。
引用文献
Naldemedine for Opioid-Induced Constipation in Patients With Cancer: A Multicenter, Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial
Jun Hamano et al. PMID: 39255425 DOI: 10.1200/JCO.24.00381
J Clin Oncol. 2024 Sep 10:JCO2400381. doi: 10.1200/JCO.24.00381. Online ahead of print.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39255425/
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