小児期におけるテトラサイクリン曝露と歯の健康の関連性は?(システマティックレビュー; Pediatrics. 2023)

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小児期のテトラサイクリン歯リスクはどのくらいなのか?

テトラサイクリン系抗生物質は、マグネシウムなどの2価イオンとキレートを形成することで蛍光を発することが知られており、歯が形成される時期(12歳頃まで)に服用すると歯の中に蛍光粒子が取り込まれ、象牙質に着色を起こしますことが報告されています。これをテトラサイクリン歯と呼びます。

紫外線の影響によっても蛍光粒子が変色するため、歯が生えはじめた際に影響がなかったとしても徐々に歯の変色が進行することも知られています。紫外線による変色促進の場合、唇により紫外線をさえぎられている部分は変色が進行しないことから、唇に一致した着色線が歯全体でみられるのが特徴です。

服用した薬剤の種類や時期によって色や場所が変わります。色は淡黄色や濃橙色、黒に近い場合もあり、前述の紫外線の影響から縞状に色が出てくることもあります。基本的に左右対称に現れますが、服用時期により6歳臼歯のみに変色がみられることもあります。患者によってはエナメル質形成不全を伴うことも報告されています。

以上のことから幼児におけるテトラサイクリン系抗生物質の使用により、着色、発育不全、う蝕など歯の健康に悪影響を及ぼす可能性があるものの、薬剤ごとの臨床的な特徴については明らかとなっていません。

そこで今回は、幼児期のテトラサイクリン系抗生物質への曝露が歯の健康に及ぼす影響について調査したシステマティックレビューの結果をご紹介します。

本試験のデータ情報源は、Medline(Ovid/PubMed)、Embase(Ovid)、Cochraneの各データベースでした。研究の偏りはNewcastle-Ottawa Scaleにより評価されました。

本システマティックレビューの対象は、8歳以前に抗生物質に曝露され、関連する転帰(う蝕、固有歯の着色、エナメル質の発育不全)のうち1つ以上を報告した英語論文でした。

同定された研究から、研究集団、デザイン、抗生物質の種類、アウトカム測定、結果に関するデータが抽出されました。

試験結果から明らかになったことは?

最初の検索で1,003件の論文が得られ、そのうち34件の研究が対象となりました。

テトラサイクリンに関する18件の研究のうち5件では、1日あたり20mg/kgを超えるテトラサイクリンへの曝露と歯の着色との間に用量反応関係があることが記されていました

幼児期のドキシサイクリンへの曝露(用量は問わない)は歯の着色とは関連しないことが報告されていました。

幼児期の抗生物質曝露とう蝕またはエナメル質欠損との間には、明確な関連は認められませんでした。

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テトラサイクリン系抗生物質であるミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)、ドキシサイクリン(商品名:ビブラマイシン)の添付文書には「他の薬剤が使用できないか、無効の場合にのみ適用を考慮すること。小児等(特に歯牙形成期にある8歳未満の小児等)に投与した場合、歯牙の着色・エナメル質形成不全、また、一過性の骨発育不全を起こすことがある。」と記載されています。しかしこれは、テトラサイクリン系抗生物質に共通した記載であり、個々の薬剤で検証されてはいません。

さて、システマティックレビューの結果によれば、現在推奨されている用量の新しいテトラサイクリン製剤(ドキシサイクリンおよびミノサイクリン)が歯の健康に悪影響を及ぼすという証拠はありませんでした。抗生物質への曝露とエナメル質またはう蝕の発育不全に関する所見は一貫していなかったことから、さらなる検証が求められます。使用用量として、20mg/kg/日を超えなければ着色リスクは低いようですが、そもそも、どのような小児患者でテトラサイクリン系抗生物質が必要となるのか(肺炭疽やロッキー山紅斑熱など)、リスクベネフィットを踏まえ慎重に検証する必要があります。

続報に期待。

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✅まとめ✅ 現在推奨されている用量の新しいテトラサイクリン製剤(ドキシサイクリンおよびミノサイクリン)が歯の健康に悪影響を及ぼすという証拠はなかった。抗生物質への曝露とエナメル質またはう蝕の発育不全に関する所見は一貫していなかった。

根拠となった試験の抄録

背景:幼児における抗生物質の使用は広く行われており、着色、発育不全、う蝕など歯の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。

目的:幼児期の抗生物質曝露が歯の健康に及ぼす影響を系統的に検討すること。

データ情報源:Medline(Ovid/PubMed)、Embase(Ovid)、Cochraneの各データベース。研究の偏りはNewcastle-Ottawa Scaleを用いて評価した。

研究の選択: 8歳以前に抗生物質に曝露され、関連する転帰(う蝕、固有歯の着色、エナメル質の発育不全)のうち1つ以上を報告した英語論文を対象とした。

データ抽出:同定された研究から、研究集団、デザイン、抗生物質の種類、アウトカム測定、結果に関するデータを抽出した。

結果:最初の検索で1,003件の論文が得られ、そのうち34件の研究が含まれた。テトラサイクリンに関する18件の研究のうち5件では、1日あたり20mg/kgを超えるテトラサイクリンへの曝露と歯の着色との間に用量反応関係があることが記述されていた。幼児期のドキシサイクリンへの曝露(用量は問わない)は歯の着色とは関連しなかった。幼児期の抗生物質曝露とう蝕またはエナメル質欠損との間には、明確な関連は認められなかった。

限界:対象としたすべての研究において、主な限界および偏りの原因は、比較群の欠如、一貫性のない結果指標、および関連する交絡因子の調整不足であった。

結論:現在推奨されている用量の新しいテトラサイクリン製剤(ドキシサイクリンおよびミノサイクリン)が歯の健康に悪影響を及ぼすという証拠はなかった。抗生物質への曝露とエナメル質またはう蝕の発育不全に関する所見は一貫していなかった。さらなる前向き研究が必要である。

引用文献

Antibiotic Exposure and Dental Health: A Systematic Review
Dharini Ravindra et al. PMID: 37264510 DOI: 10.1542/peds.2023-061350
Pediatrics. 2023 Jul 1;152(1):e2023061350. doi: 10.1542/peds.2023-061350.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37264510/

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