転倒予防における薬剤師独立処方の効果はどのくらい?
海外において薬剤師の処方権は、独立型と依存型に大きく分けられます。独立型とは、薬剤師が患者のアセスメント・診断・臨床マネジメントに責任を有する処方権であり、薬剤師が自分の判断で処方せんを書くことができる権限です。イギリスでは一般的であり、独立処方権を取得するためには、英国王立薬剤師会(Royal Pharmaceutical Society of Great Britain)に認定されたトレーニングプログラムを修了することが必須になっています。
薬剤師が独立処方権を有することで、患者アウトカムに対してどのような影響があるのかについては充分に検証されていません。
そこで今回は、ケアホームにおける薬局単独処方の有効性・安全性を推定したクラスターランダム化比較試験の結果をご紹介します。薬剤師による独立処方、一般診療所、1~3ヵ所の関連ケアホームの3つ(トライアド)がクラスターとされました。
イングランド、スコットランド、北アイルランドのケアホーム、関連する一般診療所、薬剤師による独立した処方者がトライアド構成でした。
49のトライアドと882例の入居者がランダムに割り付けられました。参加者は65歳以上で、少なくとも1つの処方薬を服用しているケアホームの入居者で、20例/トライアドに募集されました。
各薬局の独立処方者は、1~3ヵ所のケアホームで約20例の入居者に薬物ケアを提供し、6ヵ月にわたって毎週訪問しました。薬局独立処方者は、各入居者の医薬品ケアプランを作成し、医薬品のレビュー/再調整を行い、スタッフを訓練し、医薬品関連手続き、脱処方、処方の認可をサポートしました。対照群の参加者は通常のケアを受けました。
本試験の主要アウトカムは6ヵ月後の転倒率/人で、intention to treatで分析し、予後変数で調整しました。副次的アウトカムはQOL(EQ-5D、代理評価)、Barthelスコア、Drug Burden Index、入院、死亡などでした。転倒が21%減少すると仮定すると、20%の減少を考慮して880例の入所者が必要でした。
試験結果から明らかになったことは?
研究開始時の参加者の平均年齢は85歳で、70%が女性でした。
介入群 | 対照群 | リスク比 RR (95%CI) | |
転倒 | 697件 (入居者1人当たり1.55件) | 538件 (入居者1人当たり1.26件) | RR 0.91 (0.66~1.26) P=0.58 |
入院 | 平均 0.19 (SD 0.50) | 平均 0.18 (SD 0.47) | RR 0.90 (0.61〜1.32) P=0.57 |
Barthel score (日常生活動作 ADLの評価) | 平均 8.12 (SD 5.84) | 平均 6.46 (SD 5.66) | RR 1.20 (0.96〜1.49) P=0.11 |
Drug Burden Index (薬剤負荷を評価) | 平均 0.66 (SD 0.74) | 平均 0.73 (SD 0.69) | RR 0.83 (0.74〜0.92) P<0.001 |
介入群では697件(入居者1人当たり1.55件)の転倒が記録され、対照群では6ヵ月時点で538件(入居者1人当たり1.26件)の転倒が記録されました。介入群と対照群の転倒率リスク比は、すべてのモデル共変量で調整後、有意ではありませんでした(0.91、95%信頼区間 0.66~1.26)。
副次的アウトカムは群間で有意差はありませんでしたが、Drug Burden Indexは例外であり、介入群が有意に有利でした。薬局独立処方者による介入の3分の1(185/566例;32.7%)が転倒に関連する医薬品に関与していました。
有害事象や安全性に関する懸念は確認されませんでした。
コメント
薬剤師の独立処方権による患者予後への影響については明らかになっていません。
さて、クラスターランダム化比較試験の結果、転倒の変化は、介入群と対照群との間で差がありませんでした。追跡期間を6ヵ月に限定したことと、転倒に影響を及ぼすと予測された介入の割合が少なかったことが、この結果を説明する可能性があります。
副次評価項目であるDrug Burden Indexは抗コリン薬と鎮静薬への曝露の指標であり、スコアが高いほど抗コリン作用の可能性が高く、薬物関連罹患リスクが高いことを示してます。介入群でDrug Burden Indexが有意に減少していますが、この差が患者にどのくらいの益をもたらすのか不明です。他の臨床試験では、Drug Burden Indexを0、0〜1、1<の3つに分け、患者の割合を比較したりしています。
以上を踏まえると、本試験により薬剤師独立処方権が患者予後に影響しないとは結論づけられません。どのようなアウトカム、フォローアップ期間を設定するのかが重要であると考えます。
続報に期待。
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