pre-HFpEF患者の左房容積に対するARNI vs. ARB、どちらが良いのか?
2020年頃から、駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の前段階にあたるpre-HFpEFという概念が報告されています。pre-HFpEFの定義は、無症状(心不全の徴候や症状がない)で、左室駆出率(LVEF)が保たれ、心臓の構造異常(HFpEFの報告と同様)、心機能障害のバイオマーカー代用物質(主にナトリウム利尿ペプチド、カットポイント値はHFpEFの報告と同様)が上昇した患者であることが明らかにされつつあります(PMID: 33611374)。
真のHFpEFとは対照的に、pre-HFpEFの重要な臨床的要素は、心不全の徴候および症状がないことです。pre-HFpEFの表現型を決定するためには、構造的および分子的な異常の評価が必要であり、リスクの勾配が大きくなるにつれて、その評価は厳しくなります。
pre-HFpEFは一般的に認められていますが、心血管危険因子の管理以外に特定の治療法はありません。
そこで今回は、pre-HFpEF患者において、サクビトリル/バルサルタンとバルサルタンの比較により、容積測定心臓磁気共鳴画像法を用いて左房容積指数が減少するか検証したランダム化比較試験(PARABLE試験)の結果をご紹介します。
Personalized Prospective Comparison of ARNI [angiotensin receptor/neprilysin inhibitor] With ARB [angiotensin-receptor blocker] in Patients With Natriuretic Peptide Elevation (PARABLE) trialは、2015年4月から2021年6月の18ヵ月間に実施した前向き、二重盲検、ダブルダミー、ランダム化臨床試験です。本試験は、アイルランド・ダブリンの単一の外来循環器センターで実施されました。STOP-HFプログラムまたは外来循環器科クリニックの患者1,460例のうち、461例が初期基準を満たし、組み入れの打診を受けました。このうち323例がスクリーニングを受け、高血圧または糖尿病、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)20pg/mL以上またはN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド100pg/mL以上の上昇、左房容積指数28mL/㎡以上、保存駆出率50%以上の40歳以上の無症状患者250例が対象となりました。
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)であるサクビトリル/バルサルタンを1日2回200mgに漸増する群と、アンジオテンシン受容体遮断薬であるバルサルタンを1日2回160mgに漸増する群に患者が割り付けられました。
本試験の主要アウトカムは、最大左房容積指数と左室拡張末期容積指数、外来脈圧、N末端プロBNP、有害心血管イベントでした。
試験結果から明らかになったことは?
本研究に参加した250例のうち、年齢中央値は72.0(IQR 68.0〜77.0)歳、154例(61.6%)は男性、96例(38.4%)は女性でした。ほとんどの参加者(n=245 [98.0%])が高血圧を有し、60例(24.0%)が2型糖尿病を有していました。
サクビトリル/バルサルタン群 | バルサルタン群 | |
最大左房容積指数 | 6.9 mL/m2 (95%CI 0.0 〜 13.7) P<0.001 | 0.7 mL/m2 (95%CI -6.3 〜 7.7) |
脈圧 | -4.2 mmHg (95%CI -7.2 ~ -1.21) | -1.2 mmHg (95%CI -4.1 〜 1.7) |
N末端pro-BNP | -17.7% (95%CI -36.9 〜 7.4) | 9.4% (95%CI -15.6 〜 4.9) |
主要な有害心血管イベント (MACE) | 6例(4.9%) 調整ハザード比 0.38 (95%CI 0.17~0.89) 調整済みP=0.04 | 17例(13.3%) |
最大左房容積指数は、両群とも充満圧(filling pressure)マーカーが減少したにもかかわらず、サクビトリル/バルサルタン投与群(6.9 mL/m2、95%CI 0.0 〜 13.7)では増加しました(vs. バルサルタン投与群:0.7 mL/m2、95%CI -6.3 〜 7.7、P<0.001)。
脈圧とN末端プロBNPの変化は、バルサルタン群(-1.2 mmHg、95%CI -4.1 〜 1.7; 9.4%、95%CI -15.6 〜 4.9; P<0.001)よりもサクビトリル/バルサルタン群(-4.2 mmHg、95%CI -7.2 ~ -1.21; -17.7%、95%CI -36.9 〜 7.4、P<0.001)で小さいことが示されました。
主要な有害心血管イベントは、サクビトリル/バルサルタン投与群6例(4.9%)およびバルサルタン投与群17例(13.3%)で発生した(調整ハザード比 0.38、95%CI 0.17~0.89; 調整済みP=0.04)。
コメント
HFpEF患者において、無症状のステージをpre-HFpEFと分類するようです。患者数がHFpEFよりも多いと予測されることから、治療戦略の確立が急務とされています。
さて、HFpEF予備軍(pre-HFpEF)患者を対象とした本試験において、サクビトリル/バルサルタン投与は、バルサルタンに比べて左房容積指数の大きな上昇と心血管リスクマーカーの改善と関連していました。MACEについてもハザード比が1を下回っていますが、試験規模を踏まえると、あくまでも相関関係が示されたに過ぎないと考えます。
心不全は左室駆出率や症候、症状などから、多くの分類が生み出されています。それぞれの特徴や患者よごを踏まえて、治療法を整理しておきたいところです。
続報に期待。
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