腹膜透析患者にみられる低カリウム血症に対する最適なカリウム補充方法とは?
低カリウム血症は腹膜透析(PD)患者によくみられる電解質異常であり、腹膜炎や死亡のリスク上昇と関連することが指摘されています。しかし、機序は明らかとなっておらず、また、あくまでも相関関係が示されているにすぎません。さらに、低カリウム血症に対するカリウム補充が腹膜炎や死亡リスクを低減できるかどうかは不明です。
そこで今回は、低カリウム血症(過去6ヵ月間に少なくとも3つの値または平均値<3.5mEq/Lと定義)を有する成人(18歳以上)PD患者を対象に、カリウムの補充方法による腹膜炎や死亡リスクへの影響について検討した多施設共同、非盲検、前向き、ランダム化比較試験の結果をご紹介します。
本試験では、52週間にわたり、プロトコルベースのカリウム補充(血清カリウムを4~5mEq/Lに維持するために用量を調整した塩化カリウムを経口投与)または従来のカリウム補充(血清カリウムが<3.5mEq/Lのときに塩化カリウムを経口投与)のいずれかに患者をランダムに割り付けました。Cox比例ハザード回帰を用いたintention-to-treat解析により、治療群を比較しました。
本試験の主要アウトカムは、ランダム化から腹膜炎の初発までの時間でした。副次的アウトカムは、全死亡、心血管系死亡、入院、および血液透析への移行でした。
試験結果から明らかになったことは?
PDセンター6施設から、時間平均の血清カリウム濃度が3.33±0.28mEq/Lの患者167例が登録されました。85例はプロトコルに基づく治療を受けるように割り当てられ、82例は従来の治療を受けるように割り当てられました。追跡期間の中央値は401日(IQR 315~417)でした。
プロトコルベース治療群 (継続投与) | 従来治療群 (オンデマンド投与) | 平均差 [95%CI] | |
血清カリウム値 | 4.36±0.70mEq/L | 3.57±0.65mEq/L | 0.66mEq/L [0.53~0.79] P<0.001 |
試験期間中、プロトコルベースの治療群の血清カリウム値は4.36±0.70mEq/Lに上昇したのに対し、従来の治療を受けた群では3.57±0.65mEq/Lでした(平均差 0.66 [95%CI 0.53~0.79] mEq/L; P<0.001)。
プロトコルベース治療群 (継続投与) | 従来治療群 (オンデマンド投与) | ハザード比 HR [95%CI] | |
血腹膜炎の初発までの期間 (中央値) | 223日 [IQR 147~247] | 133日 [IQR 41~197] | 0.47 [0.24~0.93] |
腹膜炎の初発までの期間中央値は、プロトコルベース群で有意に長いことが示されました(223 [IQR 147~247]日 vs. 133 [IQR 41~197] 日、P=0.03)。従来の治療と比較して、プロトコルベース群では腹膜炎のハザードが有意に低いことが示されましたが(HR 0.47 [95%CI 0.24~0.93] )、どの副次的転帰(全死亡、心血管系死亡、入院、および血液透析への移行)に関しても有意差はありませんでした。
特徴的な心電図変化を伴わない無症候性高カリウム血症(>6 mEq/L)が、プロトコルベースの治療群の3例(4%)に発生しました。
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低カリウム血症は腹膜透析(PD)患者によくみられる電解質異常であり、腹膜炎や死亡のリスク上昇と関連することが報告されています。しかし、低カリウム血症が腹膜炎や死亡リスクを増加させるのか、腹膜炎や死亡リスクの高い集団において低カリウム血症が認められるのかについては明らかとなっていません。さらに、低カリウム血症に対するカリウム補充が、腹膜炎や死亡リスクを低減できるのかについては明らかとなっていません
さて、本試験結果によれば、血清カリウム値が3.5mEq/L未満に低下した場合の反応性カリウム補充(オンデマンド投与)と比較して、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lの範囲に維持するプロトコルベースの経口カリウム治療(用量調整をしつつ持続的に投与)は、低カリウム血症を有するPD投与患者の腹膜炎リスクを低減させました。本試験の制限として、非盲検であることがあげられ、結果を割り引いて捉えた方がよさそうです。一方、全死亡、心血管系死亡、入院、および血液透析への移行について群間差は認められませんでした。死亡および心血管系死亡については、試験期間が短かった可能性が高いと考えられます。
非常に興味深い結果ではありますが、追試が求められると考えられます。
続報に期待。
☑まとめ☑ 血清カリウム値が3.5mEq/L未満に低下した場合の反応性カリウム補充と比較して、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lの範囲に維持するプロトコルベースの経口カリウム治療は、低カリウム血症を有するPD投与患者の腹膜炎リスクを低減させた。
根拠となった試験の抄録
理由と目的:低カリウム血症は腹膜透析(PD)患者によくみられる電解質異常であり、腹膜炎や死亡のリスク上昇と関連することが指摘されている。低カリウム血症の是正がこれらの転帰を改善するかどうかは不明である。
試験デザイン:多施設共同、非盲検、前向き、ランダム化比較試験
試験設定と参加者:低カリウム血症(過去6ヵ月間に少なくとも3つの値または平均値<3.5mEq/Lと定義)を有する成人(18歳以上)PD患者。施設および残尿量(100mL/日以下または100mL/日以上)により層別化し、ランダム化した。
介入:52週間にわたり、プロトコルベースのカリウム補給(血清カリウムを4~5mEq/Lに維持するために漸増量の塩化カリウムを経口投与)または従来のカリウム補充(血清カリウムが<3.5mEq/Lのときに反応性補充)のいずれかにランダムに割り付けた。Cox比例ハザード回帰を用いたintention-to-treat解析により、治療群を比較した。
アウトカム:主要アウトカムは、ランダム化から最初の腹膜炎エピソードまでの時間であった。副次的アウトカムは、全死亡、心血管系死亡、入院、および血液透析への移行とした。
結果:PDセンター6施設から、時間平均の血清カリウム濃度が3.33±0.28mEq/Lの患者167例が登録された。85例はプロトコルに基づく治療を受けるように割り当てられ、82例は従来の治療を受けるように割り当てられた。追跡期間の中央値は401日(IQR 315~417)であった。試験期間中、プロトコルベースの治療群の血清カリウム値は4.36±0.70mEq/Lに上昇したのに対し、従来型の治療を受けた群では3.57±0.65mEq/Lだった(平均差 0.66 [95%CI 0.53~0.79] mEq/L; P<0.001)。初回腹膜炎発症までの期間中央値は、プロトコルベース群で有意に長かった(223 [IQR 147~247] vs. 133 [IQR 41~197] 日、P=0.03)。従来の治療と比較して、プロトコルベース群では腹膜炎のハザードが有意に低かったが(HR 0.47 [95%CI 0.24~0.93] )、どの副次的転帰に関しても有意差はなかった。特徴的な心電図変化を伴わない無症候性高カリウム血症(>6 mEq/L)が、プロトコルベースの治療群の3例(4%)に発生した。
試験の制限:二重盲検化されていない。
結論:血清カリウム値が3.5mEq/L未満に低下した場合の反応性カリウム補充と比較して、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lの範囲に維持するプロトコルベースの経口カリウム治療は、低カリウム血症を有するPD投与患者の腹膜炎リスクを低減させる可能性がある。
治験の登録 Thai Clinical Trials Registryに試験番号TCTR20190725004で登録された。
平易な要約:腹膜透析(PD)患者によく見られる低カリウム血症は、予後不良と関連している。PDを受けている低カリウム血症患者167例を対象に、多施設共同非盲検前向きランダム化対照試験を実施した。この試験では、血清カリウム濃度を4~5mEq/Lに維持するためにプロトコルに基づいて低カリウム血症を補正すること(85例)が、血清カリウム濃度が3.5 mEq/L以下になったときに反応性カリウム補充を行うこと(82例)と比較してPD関連の転帰を改善できるかどうかが検討された。追跡期間中央値401日において、プロトコールの補充は安全であると考えられ、腹膜炎のリスクを有意に減少させた。
キーワード:有害事象、末期腎不全(ESRD)、低カリウム血症、腎代替療法(KRT)、腹膜透析(PD)、腹膜炎、塩化カリウム錠、カリウム補給、ランダム化比較試験(RCT)、血清カリウム
引用文献
Efficacy of Potassium Supplementation in Hypokalemic Patients Receiving Peritoneal Dialysis: A Randomized Controlled Trial
Watthikorn Pichitporn et al. PMID: 35597332 DOI: 10.1053/j.ajkd.2022.03.013
Am J Kidney Dis. 2022 May 18;S0272-6386(22)00627-8. doi: 10.1053/j.ajkd.2022.03.013. Online ahead of print.
— 読み進める pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35597332/
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