退院時に新規および慢性的に潜在的不適切な薬剤(PIMs)を継続すると、有害事象のリスクが増加しますか?(前向きコホート研究; J Am Geriatr Soc. 2020)

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潜在的に不適切な薬剤(PIMs)とは?

どのような薬にも副作用はありますが、特に65歳以上の高齢者においては、有益性よりも有害性のリスクが高いものが「潜在的に不適切な薬剤(PIMs, ピムズ)」と定義されています(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22368709/)。

その結果、PIMsの解消(削除)によって医療を改善する機会を提供したり、必要に応じて安全な代替薬に置き換えることができるかもしれません。高齢者におけるPIMsの有病率は、医療環境(地域社会と病院など)や不適切な処方を定義するための基準(Beers Criteria®やSTOPP基準など)に応じて、20%から60%となっています。

これまでの研究において、退院時にPIMsが減少したという報告がある一方で、退院時は新たにPIMsが処方される環境でもあります。

そこで今回は、退院時に市中から継続して処方されたPIMsと退院時に新たに処方されたPIMsの両方が、退院後のADE、ED訪問、再入院、および死亡のリスクと関連するかどうかを評価した前向きコホート研究の結果をご紹介します。

試験結果から明らかになったことは?

対象患者2,402例のうち、退院時に少なくとも1種類のPIMsが処方された患者は1,576例(66%)で、1,176例(49%)は入院前からのPIMsを継続し、755例(31%)は少なくとも1種類の新しいPIMsが処方されました。

退院後30日間に、218例(9%)が薬物有害事象を経験し、862例(36%)が救急外来を受診、再入院、または死亡した。

調整後の結果では、新規PIMsと地域PIMsの継続が、それぞれ薬物有害事象の発生確率の上昇と関連していました。また、救急受診、再入院、死亡リスクの増加も認められました。

新規PIMsPIMsの継続
薬物有害事象の発生オッズ比 1.21
(95%CI 1.01~1.45)
オッズ比 1.10
(95%CI 1.01~1.21)
救急受診、再入院、死亡リスクハザード比 1.13
(95%CI 1.03〜1.26)
ハザード比 1.05
(95%CI 1.00〜1.10)

コメント

潜在的に不適切な薬剤(PIMs)と有害事象発生リスクについて検証した試験において関連が認められ、救急受診、再入院、死亡リスクが増加していました。

予想通りの結果ではありますが、効果推定値はあまり大きくない印象です。とはいえ、新規PIMsの影響の方が、入院前からのPIMsの継続よりも大きい可能性が示されている点が興味深いと捉えています。

入院時の薬物治療の再設計が求められていますが、特に新規で処方される薬については注意が必要であり、必要性について特に検討がした良いと考えられます。

ちなみにPIMsの対象となった薬剤は、次のような薬剤使用がなされている場合でした;

  • てんかんや不安のない患者におけるベンゾジアゼピン系薬剤の使用
  • 抗凝固剤を服用していない消化管出血または消化性潰瘍のない患者におけるプロトンポンプ阻害剤の使用
  • 高血圧症患者におけるシクロオキシゲナーゼ(COX)-2阻害剤の使用
  • 前立腺肥大を伴わない高血圧症患者における選択的α-1アドレナリン遮断薬の使用
  • がんを伴わない せん妄患者におけるオピオイドの使用
  • 統合失調症や双極性感情障害を伴わない せん妄患者における非定型抗精神病薬の使用
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✅まとめ✅ 入院患者の3人のうち2人は退院時にPIMsを処方されており、PIMs数の増加は、ADEおよび全原因有害事象のリスク増加と関連していた

根拠となった論文の抄録

背景:入院は、患者の薬物療法を見直す機会となる。しかし、入院後に薬物療法の安全性がどの程度変化するかは不明である。

目的:退院時に患者に処方された潜在的に不適切な薬剤(PIMs)の数と、退院後30日後の有害事象のリスクとの関連を推定すること。

デザイン:前向きコホート研究。

試験設定:カナダ・ケベック州モントリオールにあるMcGill大学ヘルスセンターネットワーク内の3次医療機関。

参加者:2014年10月~2016年11月に入院した65歳以上の患者(内科、心臓外科、胸部外科)。

測定方法:抽出されたチャートデータを州の健康データベースにリンクした。PIMsは、AGS(米国老年医学会)のBeers Criteria®、STOPP、Choosing Wiselyステートメントを用いて同定した。多変量ロジスティック回帰およびCoxモデルを用いて、PIMsと有害事象との関連を評価した。

結果:対象患者2,402例のうち、1,381例(57%)が男性、年齢中央値は76歳(四分位範囲[IQR] 70~82歳)、退院時に処方された薬剤は8種類(IQR 2~8)であった。
退院時に少なくとも1種類のPIMsが処方された患者は1,576例(66%)で、1,176例(49%)は入院前からのPIMsを継続し、755例(31%)は少なくとも1種類の新しいPIMsが処方された。
退院後30日間に、218例(9%)が薬物有害事象(ADE)を経験し、862例(36%)が救急外来を受診、再入院、または死亡した。
調整後の結果では、新規PIMsと地域PIMsの継続がそれぞれ21%(オッズ比[OR]1.21、95%信頼区間[CI]1.01~1.45)、10%(OR 1.10、95%CI 1.01~1.21)のADEの発生確率の上昇と関連していた。また、救急受診、再入院、死亡のリスクがそれぞれ13%(ハザード比[HR] 1.13、95%CI 1.03〜1.26)、5%(HR 1.05、95%CI 1.00〜1.10)増加した。

結論:入院患者の3人のうち2人は退院時にPIMsを処方されており、PIMs数の増加は、ADEおよび全原因有害事象のリスク増加と関連していた。病院の処方方法を改善することで、PIMsの頻度や関連する有害事象を減らすことができるかもしれない。

引用文献

Both New and Chronic Potentially Inappropriate Medications Continued at Hospital Discharge Are Associated With Increased Risk of Adverse Events
Daniala L Weir et al. PMID: 32232988 PMCID: PMC7687123 DOI: 10.1111/jgs.16413
J Am Geriatr Soc. 2020 Jun;68(6):1184-1192. doi: 10.1111/jgs.16413. Epub 2020 Mar 31.

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