Risk of Hospitalization With Hemorrhage Among Older Adults Taking Clarithromycin vs Azithromycin and Direct Oral Anticoagulants
Kevin Hill et al.
JAMA Intern Med. 2020 Jun 8;180(8):1-10. doi: 10.1001/jamainternmed.2020.1835. Online ahead of print.
PMID: 32511684
PMCID: PMC7281381 (available on 2021-06-08)
DOI: 10.1001/jamainternmed.2020.1835
試験の重要性
クラリスロマイシンは一般的に処方される抗生物質であり、血液中の直接経口抗凝固剤(DOAC)の濃度レベルが高いことと関連しており、出血リスクを高める可能性がある。
目的
DOACを服用している高齢者におけるクラリスロマイシン処方後の30日間の出血による入院リスクをアジスロマイシンと比較して評価すること。
試験デザイン、設定、および参加者
この集団ベースのレトロスペクティブなコホート研究は、2009年6月23日から2016年12月31日までにカナダのオンタリオ州でDOAC(ダビガトラン、アピキサバン、またはリバロキサバン)を服用中にクラリスロマイシン(n = 6,592)あるいはアジスロマイシン(n = 18 ,351)を新たに共処方された高齢の成人(平均[SD]年齢 77.6[7.2]歳)を対象に実施された。
出血と抗生物質使用(クラリスロマイシン vs. アジスロマイシン)との関連を調べるためにCox比例ハザード回帰を用いた。
統計解析は2019年12月23日から2020年3月25日まで実施した。
主要アウトカムと対策
大出血(上部または下部消化管または頭蓋内)を伴う入院。アウトカムは共処方後30日以内に評価した。
結果
・本試験に参加した患者24,943例(女性 12,493例、平均年齢 77.6[7.2]歳)のうち、DOACとして最も多く処方されたのはリバーロキサバン(9,972例[40.0%])であり、次いでアピキサバン(7,953例[31.9%])、ダビガトラン(7,018例[28.1%])の順であった。
・クラリスロマイシンあるいはアジスロマイシンをDOACと併用することは、大出血を伴う入院リスクの増加と関連していた。
★クラリスロマイシン服用患者 6,592例中51例[0.77%] vs. アジスロマイシン服用患者 18,351例中79例[0.43%]
★調整後ハザード比 =1.71[95%CI 1.20〜2.45]
★絶対リスク差 =0.34%
・結果は複数の追加解析で一貫していた。
結論および関連性
この研究は、DOACを服用している高齢の成人において、アジスロマイシンと比較してクラリスロマイシンの同時使用は、30日間の大出血を伴う入院リスクが小さいが統計学的に有意に高いことと関連していることを示唆している。
コメント
以前から直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants, DOACs)とCYP阻害薬との併用により、AUCが増加することが報告されています。しかし、CYP阻害薬との併用により実際にDOACによる出血リスクが増加するのか不明でした。
日本においては、次の4種類のDOACsが承認されています;
- ダビガトラン(プラザキサ®️:2011年承認)
- エドキサバン(リクシアナ®️:2011年承認)
- リバーロキサバン(イグザレルト®️:2012年承認)
- アピキサバン(エリキュース®️:2013年)
DOACsのうちダビガトランは、主にP糖タンパク(Pgp)トランスポーターにより代謝されることが報告されています。一方、アピキサバンやリバーロキサバンは、主にシトクロムP450(CYP)3A4によって代謝され、エドキサバンはカルボキシエステラーゼ1による加水分解、抱合及びCYP3A4による代謝を受け、CYP3A4による代謝は投与量の10%未満と報告されています。
マクロライド系抗菌薬のうちクラリスロマイシンは、CYP3A4およびPgp、両方を阻害作することが報告されており、DOACsとクラリスロマイシンを併用することで血中濃度が20~100%上昇し、凝固時間が長引くことが報告されています。クラリスロマイシンの添付文書においても、DOACsは併用注意の欄に記載があります。
さて、本試験結果により、リバーロキサバン、アピキサバン、ダビガトランとクラリスロマイシンあるいはアジスロマイシンとの併用により、大出血を伴う入院リスクの増加が認められました。アジスロマイシンと比較して、クラリスロマイシン併用によるリスク増加の調整後ハザード比は1.71(95%CI 1.20〜2.45)でした。
しかし、ここまでの結果のみでは、DOACs単独使用と比較して出血リスクが増加するかは不明です。そこで本文をみてみると、出血性イベントについて、クラリスロマイシンおよびDOACsの同時使用とDOACs単独使用とを比較していました。結果としては、クラリスロマイシンおよびDOACsの併用は、DOACs単独使用と比較して、出血性イベントのリスク増加と関連していることが示されました(率比 =1.44、95%CI 1.08~1.92)。
個人的には、効果推定値として、そこまで大きなリスク増加ではないと考えますが、このリスクは、患者背景により異なるでしょう。したがって、出血性リスクの高い患者においては、DOACsとマクロライドとの併用を避けた方が良いのかもしれません。ただし、本試験結果はあくまでも仮説生成的な結果です。追試の前向き試験あるいは、後向きであってもエビデンスの集積が必要と考えます。
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