Efficacy and Safety of Ivabradine in Japanese Patients With Chronic Heart Failure – J-SHIFT Study
Tsutsui H et al.
Circ J. 2019
Circ J, 83 (10), 2049-2060
PMID: 31391387
Keywords: Chronic heart failure; Heart rate; Ivabradine; Japanese; Left ventricular ejection fraction.
抄録
背景
心拍数の増加(HR)は、慢性心不全(HF)における心血管アウトカムの独立した危険因子である。anIf阻害薬イバブラジンは、SHIFT研究でHF患者(HFrEF)の転帰を改善し、駆出率を低下させた。
目的
無作為化、二重盲検、プラセボ対照第III相試験:J-SHIFT試験で、日本人HFrEF患者におけるイバブラジンの有効性と安全性を評価した。
主な目的は、心血管死または心不全の悪化による入院の主要複合エンドポイントでのハザード比が1未満であることを確認することであった。
方法
NYHA機能クラスII-IV、左室EF≤35%、最適な薬物療法下で洞調律HR 75拍/分以上の患者は、イバブラジン(n = 127)またはプラセボ(n = 127)にランダム割り付けられた。
結果
・安静時HRの平均低下は、イバブラジン群で有意に大きかった(15.2 vs. 6.1拍/分、P <0.0001)。ただし、症候性徐脈は発生しなかった。
・中央値589日のフォローアップ中に、イバブラジン群の合計26人(20.5%)とプラセボ群の37人(29.1%)が主要エンドポイントイベント(ハザード比 =0.67、95%CI 0.40-1.11、P = 0.1179)を有していた。
・軽度の閃光は、イバブラジン群の8人(6.3%)とプラセボ群の4人(3.1%)で報告された(P = 0.3760)。
結論
J-SHIFT研究は、SHIFT研究と一致して、日本人HFrEF患者に対するイバブラジンの有効性と安全性を支持した。
PICOTS
P: 慢性心不全患者(HFrEF)
I : イバブラジン(2.5mgから開始し、HR 50-60拍/分になるよう2.5mg-7.5mgで調節)
C: プラセボ
O: 心血管死 or 心不全増悪による入院
T: DB-RCT、安全性、有効性
S: 多施設(日本の医療機関146施設)、組入期間2015年10月〜2018年8月
組入基準
- 20歳以上
- 4週間を超える慢性心不全に対する最適化および変更されていない薬物療法と投与量
- 4週間を超えるNYHA機能クラスII、III、またはIV、および4週間を超える安定した臨床状態
- 過去12週間以内の左室駆出率35%未満
- 洞調律における安静時心拍数75拍/分未満
- 過去52週間以内に心不全の悪化による入院歴
除外基準
1. 過去8週間以内の心筋梗塞または冠動脈血行再建
2. 重度の原発性弁膜症または心臓弁膜症の手術を予定している患者
3. 過去4週間以内の脳卒中または一過性脳虚血
4. 活動性心筋炎
5. 先天性心疾患
6. 心臓移植候補
7. 過去24週間以内の心臓再同期療法
8. 日における心房または心室ペーシングのペースメーカー(両心室ペーシングを除く)40%未満、または心房あるいは心室レベルで刺激閾値が60拍/分以上
9. 持続性心房細動または粗動
10. 洞不全症候群、洞房ブロック、2度/3度房室ブロック
11. 症候性または持続性(> 30秒)の心室性頻拍により除細動器/除細動器が埋め込まれている
12. 過去24週間以内の除細動器/除細動器ショック
13. 家族歴または先天性QT延長症候群またはQT延長を促す薬剤使用
14. 重度またはコントロール不良の高血圧(SBP> 180 mmHgまたはDBP> 110 mmHg)
15. 低血圧(座位SBP <85 mmHgまたは症候性低血圧)
16. 中等度または重度の肝疾患、重度の腎疾患、または貧血
患者背景
対象はHFrEFと捉えて差し支えないと思います。また日本人ではNYHAクラスIIの割合が多く、比較的、自覚症状は軽いようです。なぜEFとパラレルではないのだろうか。
あとは海外と比べて、ACE-IあるいはARBの使用率が低いですね。
批判的吟味
ランダム割り付けされているか?
されている。最小化法・動的割付
コンシールメントされているか?
中央割付であると考えられる。したがってコンシールメントはされていると判断した。
ベースラインは同等か?
おおむね同等であると考えられる。MRAの使用率に若干の差異が認められるが、
試験結果にどの程度影響を与えるかは不明。
ITT解析か?
Table 1、Figure 1~3からITTであると考えられる。
ただし、心拍数については各群2例の欠損があると考えられる(もしかしたら誤植かも)。
脱落はどのくらいか?
Figure 1より追跡不能は各群1例、試験の中断(IC撤回?)はイバブラジン7例、プラセボ4例
被験薬の中止はイバブラジン群11例(8.7%)、プラセボ群20例(15.7%)だった。結果に影響を及ぼすほどではないと考えられる。
マスキングの対象は誰か?
患者と医療従事者(担当医師)。
薬剤は錠剤の大きさ及び色が同様であった。
サンプルサイズは計算されているか?
一応計算されているが、統計解析を実施していない。つまりβやαを設定していないため厳密には計算していないと考えられる。
試験に必要なサンプル数を100と設定し、試験中断や脱落が20%含まれると想定されていた。
しかし実際の組入れ目標としては少し多めに各群125例を設定。組入れられた症例数は127例と充分。
そもそもの試験目的が、効果推定値であるハザード比のみをターゲットにしているため、
試験デザインが不十分であると考えられる。
海外で実施されたSHIFTの追っかけで承認を急いだからかもしれない(follow-up期間1.3年くらい)。
それにしてもfeasibilityの意味をやや誤認している試験であり、完全にspin(粉飾)である。
結果の解釈は?
・服薬アドヒアランスは、両群とも98%以上とかなり良好。
・試験終了時のイバブラジンの用量は、最大量(7.5mg×2回)が90例(70.9%)、5mg×2回が20例(15.7%)、2.5mg×2回が7例(5.5%)だった。
プライマリーアウトカムのNNT
Primary endpoint:イバブラジン群26例(20.5%) vs. プラセボ群37例(29.1%)
HR =0.67(95&CI 0.40-1.11)、P=0.1179 ←95%CIが1をまたいでいても、HRが1を下回っているので試験目的は達成したとのこと。
ARR =8.6、NNT =12
ただし、内訳をみると心不全増悪による入院のみでプラセボ群との差がみられる。事項から二次アウトカムをみていきます。
心不全増悪による入院
心不全増悪による入院:イバブラジン群20例(15.7%) vs. プラセボ群36例(28.3%)
HR =0.53(0.31–0.92)、P =0.0242
全死亡
全死亡:イバブラジン群9例 (7.1% ) vs. プラセボ群9例 (7.1%)
HR =1.15(0.45–2.94)、P =0.7669
心血管死
心血管死:イバブラジン群7例(5.5%) vs. プラセボ群8例(6.3%)
HR =1.00(0.36–2.79)、P =0.9972
心不全による死亡
心不全による死亡:イバブラジン群1例(0.8%) vs. プラセボ群6 例(4.7%)
HR =0.20(0.02–1.70)、P =0.1405
コメント
なかなかに潔い試験(事件)だと思いました。理由は次の通り:
“J-SHIFT研究の目的は、実現可能性(feasibility)のためにハザード比<1のポイント推定として、心血管死またはHF悪化による入院の主要複合エンドポイントの数値的改善を確認することだった。”
→この時点で意味不明。
約1.3年フォローアップしていますが、追跡率が悪く、Effectivenessを捉えることが困難です。
どうやらハードアウトカム発生を抑制する効果はなさそうですね。海外で行われたSHIFT studyとは少し用量が異なる点にも注意ですね。
いずれにせよ承認申請のために行われた臨床試験で、あまり根拠のない試験設計、試験設定ですね。
あくまでも仮説生成的な結果ですが、心不全増悪による入院を抑える効果はありそう。心不全の長期ケアにおいて、増悪による入院は重要となるソフトアウトカムですね。
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