コレステロールを下げた方が良いのはダレか?シリーズ:SEAS trial
私的背景
リピトール®(アトルバスタチン)とゼチーア®(エゼチミブ)の合剤、アトーゼット®配合錠が 2018年 5月に発売予定との情報を得た。 エゼチミブの効果として記憶に新しいのは IMPROVE-IT試験。エゼチミブ追加により心血管イベントを絶対差で 2.0%低下させる結果であった。 一方、コレステロール値の過度な低下は死亡リスクを増加させる可能性が示唆されている。しかし、その報告の大部分は観察研究であり、もともと死亡リスクの高い患者でコレステロール値が低くなっていた可能性も考えられる。 そこで今回、コレステロールを下げた方が良いのはダレか?シリーズを立ち上げた。手始めに過去に読んだ論文を再度吟味して行くこととした。Intensive Lipid Lowering with Simvastatin and Ezetimibe in Aortic Stenosis
Rossebø AB et al. SEAS investigators. N Engl J Med. 2008 PMID: 18765433研究の背景
75 歳以上の 3〜5% は大動脈弁狭窄症を有し、冠動脈疾患や心筋梗塞による死亡リスク増加の一因であることが報告されている。重傷例では大動脈弁置換術しか治療法は無い。またスタチンによる大動脈弁狭窄症増悪に対する抑制効果は、(2008 年時点において)小規模の症例対象研究や RCT しか報告されておらず、効果も限定的であった。そこでスタチンの一つであるリポバス®(シンバスタチン)とエゼチミブ併用による大動脈弁狭窄症増悪抑制効果を検証した。結論
エゼチミブの一次アウトカムに対する効果はかなり限定的。 大動脈弁狭窄症患者において、シンバスタチンへのエゼチミブ追加はプラセボ追加と差がなかった(HR=0.96, 95%CI 0.83~1.12)。 脂質低下作用及びCABG による入院の抑制に伴う虚血性冠血管イベント抑制(HR=0.68, 95%CI 0.50~0.93)は一応証明された。PICO
P:心エコーで軽度~中等度の大動脈弁狭窄症と診断された 45~85 歳の男女、1873 例 (多施設:欧州 7 ヶ国、計 173 施設) I:シンバスタチン 40mg+エゼチミブ 10mg(once daily intake) C:プラセボ O:複合アウトカム primary — 心血管死、大動脈弁狭窄症関連イベント(大動脈弁置換術、うっ血性心不全)、非致死的心筋梗塞(MI)、入院を要するイベント(不安定狭心症、心不全、CABG、PCI)、非出血性脳卒中(脳梗塞) secondary — 大動脈弁狭窄症イベント及び虚血性冠血管イベント批判的吟味
研究デザインは?ランダム化されているか?
ランダム化されている (一部 SAS trial という小規模かつ非公開試験からの組み入れ有り。SAS trial は MSD 社内データらしく閲覧できなかった)ランダム割付が隠蔽化されているか?(selection bias は無いか?)
不明だが多施設で実施されており、中央割付であると推測できる。下記は試験デザインペーパーだが有料。 Design and baseline characteristics of the simvastatin and ezetimibe in aortic stenosis (SEAS) study. – PubMed – NCBIマスキングされているか?(ブラインドか否か?)
ダブルブラインドプライマリーアウトカムは真か?
真だが注意点あり。 複合アウトカムであり、バイアスがかかりやすい入院を要する項目(ソフトエンドポイント)がある。しかし、ブラインドであるため影響はないと考えられる。交絡因子は網羅的に検討されているか?
大項目で 15 因子について検討されている。概ね問題無いと考えられる。 年齢、性別、人種(白人99%)、血圧、喫煙、BMI、心房細動、房室ブロック、前立腺肥大症、腫瘍(良性/悪性/不特定)、治療薬(ACEi/ARB/CCB/BetaB/抗血小板薬/抗凝固薬/利尿薬/ジギタリス製剤)、検査値(血糖、Cre、eGFR、hs-CRP)、脂質、心エコー検査Baseline は同等か?
ほぼ同等ITT 解析されているか?
ITT 解析追跡期間は?
52.2 ヶ月サンプルサイズは充分か?
計算されており問題ないと考えられる The study had a power of 90% to detect a reduction of 22% in the relative risk of the primary outcome.結果
Primary outcome (composite) シンバスタチン+エゼチミブ群 333 例(35.3%) vs. プラセボ群 355 例(38.2%)で両群間に有意差なし HR=0.96(95%CI:0.83~1.12、P=0.59) ・心血管死 → 47 例(5.0%) vs. 56 例(6.0%)で有意差無し HR=0.83(0.56~1.22、P=0.34) ・大動脈弁置換術 → 267 例(28.3%) vs. 278 例(29.9%)で有意差無し HR=1.00(0.84~1.18、P=0.97) ・大動脈弁狭窄症進展によるうっ血性心不全 → 25 例(2.6%) vs. 23 例(2.5%)で有意差無し HR=1.09(0.62~1.92、P=0.77) ・非致死的心筋梗塞 → 17 例(1.8%) vs. 26 例(2.8%)で有意差無し HR=0.64(0.35~1.17、P=0.15) ・CABG → 69 例(7.3%) vs. 100 例(10.8%)で有意差あり HR=0.68(0.50~0.93、P=0.02) ・PCI → 8 例(0.8%) vs. 17例(1.8%)で有意差無し HR=0.46(0.20~1.05、イベント数が少ない為 NA) ・不安定狭心症による入院 → 5 例(0.5%) vs. 8 例(0.9%)で有意差無し HR=0.61(0.20~1.86、NA) ・脳梗塞 → 33 例(3.5%) vs. 29 例(3.1%)で有意差無し HR=1.12(0.68~1.85、P=0.65) ・脂質値の変化(LDL-C) → シンバスタチン+エゼチミブ群は、試験開始時 140mg/dLが 8 週間後には 53 mg/dLで 61.3%の低下。追跡期間全体では 53.8%の低下。 一方、プラセボ群では追跡期間全体で3.8%の低下。一応 P<0.001。コメント
コレステロール関連論文を読み進めていこうと新しくはじめたシリーズです。一回目は過去に一度批判的吟味を行った SEAS試験。改めて読んでみると、論文結果に対する自身の考えの変化に気が付くことができました。 さて、本試験ではシンバスタチンが 40mg/日と、日本に比べると高用量です(リポバス®の添付文書では、20mg/日まで増量可能)。 エゼチミブの追加により脂質低下は 53.8%とプラセボに比べ絶対差で 50%の低下(まぁ、脂質低下作用なかったら承認されませんよね)。 プライマリー・エンドポイントは、残念ながらプラセボと差がなかった。脂質低下作用と心血管イベント発生はパラレルではなく、高用量スタチン単独の効果が高いと個人的には考えています。まずはスタチン低~標準用量で、それでもダメなら高用量が基本であると考えます。 またエゼチミブ群では、癌と診断された患者数がプラセボ群に比べ有意に高かったため(105 vs. 70、P=0.01)、当時進行中だった SMART および IMPROVE-IT、2 つの試験を途中解析し、約 20,000 人の患者で再検討。その結果、プラセボ群と比較し癌発生率増加は認められなかったとのこと。個人的にはリスクベネフィットの観点からは楽観視できない結果でした。 何はともあれ、胸部大動脈弁狭窄症患者においてはスタチンだけでよさそう。-Evidence never tells you what to do-
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