公共空間におけるサージカルフェイスマスクは感染リスクを低減できるのか?
観察研究のシステマティックレビューでは、フェイスマスクの着用と呼吸器感染症のリスク低下との関連が報告されていまます(PMID: 32497510、PMID: 37186920)。しかし、最近のコクランレビューの著者は、10件のランダム化試験から得られた知見に基づき、地域社会でのフェイスマスクの使用は呼吸器ウイルス感染症の発症リスクにほとんど影響しないか、まったく影響しないと結論づけました(PMID: 36715243)。
観察研究とランダム化試験の結果が異なるのは、観察研究特有のバイアスのリスクが高いこと、ランダム化比較試験の検出力が不十分であること、介入へのアドヒアランスが低いことなど、いくつかの要因が考えられます。
そこで今回は、公共空間におけるサージカルフェイスマスクの着用と非着用が、14日間の自己報告呼吸器症状に及ぼす個人防護効果を評価することを目的に実施された実用的ランダム化優越性試験の結果をご紹介します。
本試験はノルウェーで実施され、18歳以上の成人4,647人が介入群2,371人、対照群2,276人に割り付けられました。
介入群の参加者は、14日間にわたって公共の場(例えば、ショッピングセンター、道路、公共交通機関)で手術用フェイスマスクを着用することに割り付けられました(自宅や職場でのマスク着用については言及されなかった)。一方、対照群の参加者は、公共の場では手術用フェイスマスクを着用しないことに割り付けられた。
主要評価項目:主要アウトカムは、自己報告による呼吸器感染症と一致する呼吸器症状であった。副次的アウトカムは、自己報告および登録されたcovid-19感染であった。
試験結果から明らかになったことは?
2023年2月10日から2023年4月27日の間に、4,647人の参加者がランダム化され、そのうち4,575人(女性2,788人(60.9%)、平均年齢51.0(標準偏差15.0)歳)がintention-to-treat解析に組み入れられました:介入群2,313人(50.6%)、対照群2,262人(49.4%)。
介入群 | 対照群 | 限界オッズ比 (95%CI) | 絶対リスク差 (95%CI) | |
呼吸器感染症に一致する症状を自己報告したイベント | 163件 (8.9%) | 239件 (12.2%) | 限界オッズ比 0.71 (0.58~0.87) P=0.001 | 絶対リスク差 -3.2% (-5.2% ~ -1.3%) P<0.001 |
呼吸器感染症に一致する症状を自己報告したイベントは、介入群で163件(8.9%)、対照群で239件(12.2%)でした。限界オッズ比は0.71(95%信頼区間(CI)0.58~0.87;P=0.001)で、フェイスマスク介入に有利でした。絶対リスク差は-3.2%(95%CI -5.2% ~ -1.3%;P<0.001)でした。
自己報告(限界オッズ比 1.07、95%CI 0.58~1.98;P=0.82)または登録されたcovid-19感染(介入群ではイベントがなかったため、効果推定値および95%CIは推定不能)については、統計的に有意な効果は認められませんでした。
コメント
感染症リスク低減に対するフェイスマスクの効果について、試験結果の一貫性は認められていません。
さて、実用的ランダム化優越性試験の結果、14日間にわたって公共の場で手術用フェイスマスクを着用すると、手術用フェイスマスクを着用しない場合と比較して、呼吸器感染症に一致する症状を自己報告するリスクが低減しました。
より実社会におけるマスクの有効性が示されたことになります。ただし、ノルウェーの一部で検証された結果であることから、他の国や地域でも同様の結果が示されるか結果の報告が待たれるところです。再現性の確認も含めて更なる検証が求められます。
続報に期待。
✅まとめ✅ 実用的ランダム化優越性試験の結果、14日間にわたって公共の場で手術用フェイスマスクを着用すると、手術用フェイスマスクを着用しない場合と比較して、呼吸器感染症に一致する症状を自己報告するリスクが低減した。
根拠となった試験の抄録
目的:公共空間におけるサージカルフェイスマスクの着用と非着用が、14日間の自己報告呼吸器症状に及ぼす個人防護効果を評価すること。
試験デザイン:実用的ランダム化優越性試験。
試験設定:ノルウェー。
試験参加者:18歳以上の成人4,647人。2,371人が介入群に、2,276人が対照群に割り付けられた。
介入:介入群の参加者は、14日間にわたって公共の場(例えば、ショッピングセンター、道路、公共交通機関)で手術用フェイスマスクを着用することに割り付けられた(自宅や職場でのマスク着用については言及されなかった)。対照群の参加者は、公共の場では手術用フェイスマスクを着用しないことに割り付けられた。
主要評価項目:主要アウトカムは、自己報告による呼吸器感染症と一致する呼吸器症状であった。副次的アウトカムは、自己報告および登録されたcovid-19感染であった。
結果:2023年2月10日から2023年4月27日の間に、4,647人の参加者がランダム化され、そのうち4,575人(女性2,788人(60.9%)、平均年齢51.0(標準偏差15.0)歳)がintention-to-treat解析に組み入れられた:介入群2,313人(50.6%)、対照群2,262人(49.4%)。呼吸器感染症に一致する症状を自己報告したイベントは、介入群で163件(8.9%)、対照群で239件(12.2%)であった。限界オッズ比は0.71(95%信頼区間(CI)0.58~0.87;P=0.001)で、フェイスマスク介入に有利であった。絶対リスク差は-3.2%(95%CI -5.2% ~ -1.3%;P<0.001)であった。自己報告(限界オッズ比 1.07、95%CI 0.58~1.98;P=0.82)または登録されたcovid-19感染(介入群ではイベントがなかったため、効果推定値および95%CIは推定不能)については、統計的に有意な効果は認められなかった。
結論:14日間にわたって公共の場で手術用フェイスマスクを着用すると、手術用フェイスマスクを着用しない場合と比較して、呼吸器感染症に一致する症状を自己報告するリスクが低下する。
臨床試験登録 ClinicalTrials.gov NCT05690516。
引用文献
Personal protective effect of wearing surgical face masks in public spaces on self-reported respiratory symptoms in adults: pragmatic randomised superiority trial
Runar Barstad Solberg et al. PMID: 39048132 DOI: 10.1136/bmj-2023-078918
BMJ. 2024 Jul 24:386:e078918. doi: 10.1136/bmj-2023-078918.
— 読み進める https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39048132/
コメント