胸腺間質性リンパ球新生因子を阻害するヒトモノクローナル抗体 Tezepelumabとは?
喘息の発症に上皮細胞由来サイトカイン(thymic stromal lymphopoietin, TSLP:胸腺間質性リンパ球新生因子)が関与することが報告されています。TSLPのヒトモノクローナル抗体であるTezepelumab(テゼペルマブ)は、コントロール不良な重症喘息患者に対し、喘息の増悪を抑制することが報告されていますが、より大規模な試験での有効性・安全性の評価が待たれていました。
テゼペルマブの第3相試験(NAVIGATOR試験)が終了しましたので、試験結果をご紹介します。
試験結果から明らかになったことは?
全体で1,061例の患者がランダム化を受け、529例がテゼペルマブ投与、532例がプラセボ投与に割り当てられました。各群の患者は、それぞれテゼペルマブ(210mg)またはプラセボを4週間ごとに52週間にわたり皮下投与されました。
全体 | テゼペルマブ群 (95%信頼区間) | プラセボ群 (95%信頼区間) |
喘息増悪の年率換算 | 0.93 (0.80~1.07) | 2.10 (1.84~2.39) |
率比 | 0.44 (0.37~0.53) P<0.001 | |
血中好酸球数が300個/μL未満の患者 | ||
喘息増悪の年率換算 | 1.02 (0.84~1.23) | 1.73 (1.46~2.05) |
率比 | 0.59 (0.46~0.75) P<0.001 |
喘息増悪の年率換算は、テゼペルマブ群で0.93(95%信頼区間[CI] 0.80~1.07)、プラセボ群で2.10(95%CI 1.84~2.39)でした。
☆率比 0.44、95%CI 0.37~0.53;P<0.001
血中好酸球数が300個/μL未満*の患者において、年率換算はテゼペルマブで1.02(95%CI 0.84~1.23)、プラセボで1.73(95%CI、1.46~2.05)でした。
☆率比 0.59、95%CI 0.46~0.75;P<0.001
*気道炎症の指標の一つ
52週目には、気管支拡張薬投与前FEV1(0.23L vs. 0.09L、差 0.13L、95%CI 0.08~0.18;P<0.001)およびACQ-6のスコア(-1.55 vs. -1.22、差 -1.22;P<0.001)について、プラセボよりもテゼペルマブで改善がみられました。
AQLQ(1.49 vs. 1.15、差 0.34、95%CI、0.20~0.47、P<0.001)およびASD(-0.71 vs. -0.59、差 -0.12、95%CI -0.19 ~ -0.04、P=0.002)のスコアが上昇しました。
コメント
喘息治療において推奨される治療の基本(治療ステップ1)は吸入ステロイドです。吸入ステロイド(ICS)により、気道の炎症を抑え、喘息発作が起きないようにします。とはいえ100%発作を抑えることは困難であることから、発作に対して短時間作用型β2刺激薬(SABA)を使用します。
本邦の治療ステップは4段階あり、生物学的製剤であるモノクローナル抗体はステップ3と4で用いられます。これまでにモノクローナル抗体として、抗IL-4Rα抗体、抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-5Rα抗体が承認され、ICSに長時間作用型β2刺激薬(LABA)、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)などを加えてもコントロール不良の喘息症例に限って使用されます。テゼペルマブは、胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)に対する新規のモノクローナル抗体です。
さて、本試験の結果、青年および成人におけるコントロール不良な重症喘息へのテゼペルマブ使用は、プラセボと比較して、喘息増悪の年率換算が有意に低いことが明らかとなりました。さらに気道炎症が比較的低い集団(血中好酸球数が300個/μL未満)においても、プラセボと比較して、喘息増悪の年率換算が有意に低かったとのこと。
非常に有益な結果ではありますが、既存のモノクローナル抗体(抗IL-4Rα抗体、抗IgE抗体、抗IL-5抗体、抗IL-5Rα抗体)との比較試験は実施されていません。また薬価も気になるところです。
少なくとも既存のモノクローナル抗体製剤との比較が待たれるところです。続報に期待。
✅まとめ✅ テゼペルマブを投与された重症でコントロール不良な喘息患者は、プラセボを投与された患者に比べて増悪が少なく、肺機能、喘息コントロール、健康関連QOLが良好であった。
根拠となった試験の抄録
背景:テゼペルマブは、喘息の発症に関与する上皮細胞由来のサイトカインである胸腺間質性リンパ球新生因子を阻害するヒトモノクローナル抗体である。重症でコントロールされていない喘息患者におけるテゼペルマブの有効性と安全性については、さらなる評価が必要である。
方法:第3相、多施設共同、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照試験を実施した。12~80歳の患者を、テゼペルマブ(210mg)またはプラセボを4週間ごとに52週間にわたり皮下投与する群にランダムに割り付けた。
主要評価項目は、52 週間にわたる喘息増悪の年換算率であった。このエンドポイントは、ベースラインの血中好酸球数が300個/μL以下の患者でも評価された。
副次的評価項目は、強制呼気1秒量(FEV1)と、喘息コントロール質問票-6(ACQ-6、範囲 0[障害なし]~6[最大の障害])、喘息QOL質問票(AQLQ、範囲 1[最大の障害]~7[障害なし])、喘息症状日記(ASD、範囲 0[症状なし]~4[最悪の症状])のスコアであった。
結果:全体で1,061例の患者がランダム化を受けた(529例がテゼペルマブ投与、532例がプラセボ投与に割り当てられた)。
喘息増悪の年率換算は、テゼペルマブ群で0.93(95%信頼区間[CI] 0.80~1.07)、プラセボ群で2.10(95%CI 1.84~2.39)であった。
☆率比 0.44、95%CI 0.37~0.53;P<0.001
血中好酸球数が300個/μL未満の患者において、年率換算はテゼペルマブで 1.02(95%CI 0.84~1.23)、プラセボで1.73(95%CI 1.46~2.05)であった。
☆率比 0.59、95%CI 0.46~0.75;P<0.001
52週目には、気管支拡張薬投与前FEV1(0.23L vs. 0.09L、差 0.13L、95%CI 0.08~0.18;P<0.001)およびACQ-6のスコア(-1.55 vs. -1.22、差 -1.22;P<0.001)について、プラセボよりもテゼペルマブで改善がみられた。AQLQ(1.49 vs. 1.15、差 0.34、95%CI、0.20~0.47、P<0.001)およびASD(-0.71 vs. -0.59、差 -0.12、95%CI -0.19 ~ -0.04、P=0.002)のスコアが上昇した。
有害事象の頻度や種類については、両群間に有意な差はなかった。
結論:テゼペルマブを投与された重症でコントロール不良な喘息患者は、プラセボを投与された患者に比べて増悪が少なく、肺機能、喘息コントロール、健康関連QOLが良好であった。
資金提供:AstraZeneca社およびAmgen。
NAVIGATOR、ClinicalTrials.gov番号:NCT03347279
引用文献
Tezepelumab in Adults and Adolescents with Severe, Uncontrolled Asthma
Andrew Menzies-Gow et al. PMID: 33979488 DOI: 10.1056/NEJMoa2034975
N Engl J Med. 2021 May 13;384(19):1800-1809. doi: 10.1056/NEJMoa2034975.
ー 続きを読む https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33979488/
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