DOAC服用患者における静脈内血栓溶解療法は出血リスクとなりますか?(後向きコホート研究; JAMA Neurol. 2023)

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DOACを服用した虚血性脳卒中患者に対するIVTは出血リスクを増加させるのか?

国際的なガイドラインでは、最近直接経口抗凝固薬(DOAC)を服用した虚血性脳卒中患者に対する静脈内血栓溶解療法(IVT)を回避することが推奨されていますが、DOACを服用していることを知らずにIVTが実施されることもあります。

そこで今回は、DOACを最近服用した患者におけるIVTの使用に関連する症候性頭蓋内出血(sICH)のリスクを明らかにした後向きコホート研究の結果をご紹介します。

本試験は国際的な多施設共同レトロスペクティブコホート研究であり、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、ニュージーランドの64施設のプライマリーおよび包括的脳卒中センターが対象でした。IVT(血栓除去術あり・なし)を受けた連続した成人虚血性脳卒中患者を対象(DOACの最終服用が脳卒中発症の48時間以上前と判明している患者は除外)に、最近DOACを使用した患者832例と最近DOACを使用していない対照32,375例を比較しました。データは2008年1月から2021年12月まで収集されました。

本試験の主要評価項目はIVT後36時間以内のsICHであり、米国国立衛生研究所(NIH)の脳卒中スケールで4点以上悪化し、放射線学的に明らかな頭蓋内出血に起因するものと定義されました。DOACレベル測定、DOACに対する中和薬治療(イダルシズマブ、商品名:プリズバインド)、IVTの選択(DOACレベル測定もイダルシズマブも行わない)により、転帰が比較され、感度分析として、sICHとDOAC血漿レベルおよびごく最近のDOAC服用との関連性が検討されました。

試験結果から明らかになったことは?

対象患者33,207例のうち、14,458例(43.5%)が女性で、年齢中央値(IQR)は73(62~80)歳でした。National Institutes of Health Stroke Scaleのスコアの中央値(IQR)は9(5~16)でした(NIHSSでは、「0点」が正常、最大の「42点」に近づくほど神経学的重症度が高い)。DOAC服用患者832例のうち、252例(30.3%)がIVTの前にDOACの中和薬投与を受け(すべてイダルシズマブ)、225例(27.0%)がDOAC血中濃度測定を受け、355例(42.7%)がDOAC血中濃度の測定も反転投与も受けずにIVTを受けました。

DOAC服用患者対照患者調整オッズ比 aOR
sICH発生率2.5%
(95%CI 1.6~3.8
4.1%
(95%CI 3.9~4.4
aOR 0.57
(95%CI 0.36~0.92

調整前のsICH発生率は、DOAC服用患者では2.5%(95%CI 1.6~3.8)だったのに対し、抗凝固薬を使用していない対照患者では4.1%(95%CI 3.9~4.4)でした。最近のDOAC服用は、抗凝固薬を使用していない場合と比較して、IVT後のsICHの低いオッズと関連していました(調整オッズ比 0.57、95%CI 0.36~0.92)。この知見は、異なる選択戦略の間でも、血漿中濃度が検出可能な患者やごく最近服用した患者の感度分析でも一貫していました。

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国際的なガイドラインでは、最近直接経口抗凝固薬(DOAC)を服用した虚血性脳卒中患者に対する静脈内血栓溶解療法(IVT)を回避することが推奨されていますが、DOAC服用者であることを把握していない場合に、適応外ですがIVTが実施されることがあります。DOAC服用者におけるIVTにより、出血リスクが増加する可能性がありますが、充分に検討されていません。

さて、本試験結果によれば、後向きコホート研究の結果、虚血性脳卒中後、最近DOACを服用した患者を選択した場合、適応外IVTに伴う過剰な有害性を示すエビデンスは示されませんでした。DOAC服用者では、症候性頭蓋内出血リスクが低いことと関連しており、感度分析においても一貫してリスク低下との相関性が認められました。

本試験は後向きコホート研究の結果であることから、あくまでも相関関係が示されたにすぎません。質の高い前向き研究の実施が求められます。

続報に期待。

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☑まとめ☑ 後向きコホート研究の結果、虚血性脳卒中後、最近DOACを服用した患者を選択した場合、適応外IVTに伴う過剰な有害性を示すエビデンスは不充分であった。

根拠となった試験の抄録

キーポイント
臨床疑問:直接経口抗凝固薬の最近の使用(48時間以内に服用が確認されたもの)は、虚血性脳卒中に対する静脈内血栓溶解療法後の症候性頭蓋内出血のリスク上昇と関連があるか?

所見:欧州、アジア、オーストラリア、ニュージーランドの64施設で静脈内血栓溶解療法を受けた虚血性脳卒中患者33,207例を含むこのコホート研究では、抗凝固剤を直接内服している832例では、抗凝固剤内服していない対照群と比較して症候性頭蓋内出血のリスクが低いことが示された。この結果は、サブグループ間および異なる選択戦略間で一貫していた。

臨床的意義:本研究では、過去48時間以内に直接経口抗凝固薬を服用していた選択患者における、適応外静脈内血栓溶解療法の使用に関連する過剰な有害性を示す証拠は不充分であることがわかった。

試験の重要性:国際的なガイドラインでは、最近直接経口抗凝固薬(DOAC)を服用した虚血性脳卒中患者に対する静脈内血栓溶解療法(IVT)を回避することが推奨されている。

目的:DOACを最近服用した患者におけるIVTの使用に関連する症候性頭蓋内出血(sICH)のリスクを明らかにすること。

試験デザイン、設定、参加者:この国際的な多施設共同レトロスペクティブコホート研究は、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、ニュージーランドの64施設のプライマリーおよび包括的脳卒中センターを対象とした。IVT(血栓除去術あり・なし)を受けた連続した成人虚血性脳卒中患者を対象とした。DOACの最終服用が脳卒中発症の48時間以上前と判明している患者は除外した。最近DOACを使用した患者832例と最近DOACを使用していない対照32,375例を比較した。データは2008年1月から2021年12月まで収集された。

曝露:DOAC治療歴あり(IVT前48時間以内の最終服用を確認)と経口抗凝固療法歴なしを比較した。

主要評価項目:主要評価項目はIVT後36時間以内のsICHとし、米国国立衛生研究所(NIH)の脳卒中スケールで4点以上悪化し、放射線学的に明らかな頭蓋内出血に起因するものと定義した。DOACレベル測定、DOACに対する中和薬治療(イダルシズマブ、商品名:プリズバインド)、IVTの選択(DOACレベル測定もイダルシズマブも行わない)により、転帰を比較した。感度分析により、sICHとDOAC血漿レベルおよびごく最近の服用との関連性を検討した。

結果:対象患者33,207例のうち、14,458例(43.5%)が女性で、年齢中央値(IQR)は73(62~80)歳であった。National Institutes of Health Stroke Scaleのスコアの中央値(IQR)は9(5~16)であった。DOAC服用患者832例のうち、252例(30.3%)がIVTの前にDOACの中和薬投与を受け(すべてイダルシズマブ)、225例(27.0%)がDOAC血中濃度測定を受け、355例(42.7%)がDOAC血中濃度の測定も反転投与も受けずにIVTを受けた。調整前のsICH発生率は、DOAC服用患者では2.5%(95%CI 1.6~3.8)だったのに対し、抗凝固薬を使用していない対照患者では4.1%(95%CI 3.9~4.4)であった。最近のDOAC服用は、抗凝固薬を使用していない場合と比較して、IVT後のsICHの低いオッズと関連していた(調整オッズ比 0.57、95%CI 0.36~0.92)。この知見は、異なる選択戦略の間でも、血漿中濃度が検出可能な患者やごく最近服用した患者の感度分析でも一貫していた。

結論と意義:今回の研究では、虚血性脳卒中後、最近DOACを服用した患者を選択した場合、適応外IVTに伴う過剰な有害性を示すエビデンスは不充分であった。

引用文献

Intravenous Thrombolysis in Patients With Ischemic Stroke and Recent Ingestion of Direct Oral Anticoagulants
Meinel TR et al. doi:10.1001/jamaneurol.2022.4782
JAMA Neurol. Published online January 3, 2023.
ー 続きを読む https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2799622

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